あなたは食べ物の好き嫌いはありますか?

私はレバーとナタデココがどうしても嫌いです。

現代は栄養学が発達し、子供の食育がかなりうるさく言われるようになりました。

親は、小さいうちからあれもこれも食べさせないといけないと、工夫を凝らしたアイディア(謎)レシピをたくさん生み出していますよね。

離乳食のレシピ本も、「え?こんなの入れちゃって本当に美味しいの?!!!」と、大人向けには決して出さないような食材の組み合わせの料理がそれはそれはたくさんあります。

全ては”子どもになんでも食べさせる工夫”だと思います。

でも私はとっても疑問…「そこまでするメリットはどれだけあるのか?」と。

子供の好き嫌いや偏食は一時的なものがほとんどです。

例えば、パン嫌いの子は多いといいますが、大人になってもパン嫌いはたくさんいるでしょうか?

私はどちらかというと、〇〇先生がいう「食べたいもの=体に必要な栄養」・「嫌いなもの=体に(今は)不要な栄養」という考えに賛成です。

でも、好き嫌いをして・偏食をしての度合いはどの程度までが、その後、子供の健康に影響しないボーダーなのでしょうか?

今回は、子供の食育について、栄養学的な理想と偏食のボーダーについて紹介していきます。

子供の食育の基本

まずは教科書的なお話しから。

食育の歴史と食育基本法の制定以後、ベースとなっている食育の考え方を紹介します。

食育のはじまりは『食道楽』から

日本で「食育」という言葉が出てきて、その重要性がうたわれ始めたのは明治時代

明治期は西洋料理が日本に入ってきて、それまでの日本古来の食文化が変化した節目の時代ともいえます。

明治前期は洋食はたいへん高価なもので、日本人の座卓という文化にも合わずしばらく浸透しませんでした。

そんななか、明治天皇が滋養目的で肉を食べたことが、大衆に大きな影響を与えたといいます。

西洋の食材が日本でアレンジされ、食べやすいように工夫され始めました。

この頃、小説家・村井弦齋(むらいげんさい)の著書『食道楽(くいどうらく)』が当時大ヒットしました。

彼は食用医学、現代でいう栄養学ですが、その祖といわれていて、『食道楽』では、四季折々の料理やさまざまな食材を題材にかかれています。

出典:Amazon 村井弦齋・著『食道楽』

どんなお話しかというと、ヒロインが料理を作り、その料理についてのうんちくをあれこれと語るというもの。

大ヒットした理由が、扱う料理や食材が600種類以上で、和洋中さまざまな料理を題材にしているからです。

現代では漫画から小説からドラマから映画まで、「食」をテーマにした作品がたくさんありますが、『食道楽』はその原点だともいわれています。

さらに、この著書の中で触れる話題は広く食育にも及び、「小児には德育よりも、智育よりも、躰育よりも、食育が先き。躰育、德育の根元も食育にある。」と、初めて食育という言葉が使われました。

昭和・大正時代になり、一般の家庭の中にも洋食が出てくるようになって、人々は食を楽しみ、食育を重んじる文化がより豊かになりました。

食の問題が深刻に

料理や食材が豊かになるその一方で、西洋文化の流入による食環境の変化から問題が出てくるようになりました。

食育基本法が制定したのが平成17年(2005年)のことですので、その少しまえのこと。

平成14年(2002年)自民党政務調査会、食育調査会の第1回目が行われたのがはじまりでした。

法律の制定というからには昔のことだとお思いかもしれませんが、2002年なんてつい最近のことですよね。

記憶にあるニュースが、

  • ワールドカップ日本開催
  • 多摩川にアザラシ「たまちゃん」が現れ、連日動向を見守った
  • ハリーポッターが映画化
  • ヌーブラが流行った
  • ソルトレイクオリンピック開催

このあたりでしょうか。

新しいものがどんどん出てきて、食事業も盛んになり、今あるファストフード店はもうほぼ揃っていた時代です。

そうなってくると問題となるのは食習慣の乱れや栄養の偏りなど。

食育基本法の制定に先駆け問題となったのはこちら。

  • 脂肪摂取の過剰
  • 朝食欠食の習慣化・孤食や個食の増加
  • 食習慣の乱れ
  • 子供の肥満増加・過度の痩身・体力の低下などの健康への影響
  • 食の安全に関する問題
  • 体に良い食品・悪い食品に関する情報が氾濫し、適正な情報が不足
  • 食の海外依存化(食料自給率の低下)
  • 食の伝統文化の継承することが難しくなりつつあること
  • 食料資源の浪費

昭和55年(1980年)の調査では、いわゆる「日本型食生活」で保っていた栄養バランスが、平成17年時点で炭水化物が不足、脂質が過剰になっていることがわかります。

出典:総務省「食育基本法成立の背景 – 総務省

日本型食生活とは昭和50年代の食生活のことで、これが理想だと言われています。

日本が世界一の長寿国である理由の1つとして、世界からも高く評価されている食事構成です。

出典:農林水産省「「日本型食生活」のススメ」

ごはんを主食としながら、主菜・副菜に加え、適度に牛乳・乳製品や果物が加わった、バランスのとれた食事です。

もちろんご家庭によっては日本型食生活を習慣化されているところも多いと思います。

でも、忙しさからお昼ご飯はコンビニ食になってしまったり、立ち食いそば・うどんで完結してしまったり、夜は飲み会で偏った塩分の多い食事が多くなってしまうことが増えたりと、生活環境の変化から食習慣も乱れがちではないでしょうか。

また、小学5年生の朝食の欠食も、平成7年では13.3%だったのが平成12年には15.6%と年々増加し、食事バランスの乱れは生活習慣病の増加へとつながりました。

教科書的には、海外の食品依存が増加し、輸入食品の増加と米を中心とする日本国内の食料自給率が低下していることも問題です。

食料自給率が低いのが何が問題かというと、輸入に依存するということは、他国の情勢に国全体が左右されるということ。

そして、自国内で富が循環しないことは国内産業の発展につながらないということ。

こちらは分野外につきあまり詳しくないため、こちらでは割愛します。

そんなこんなで、平成 17 年 6 月に食育基本法が制定、7月に施行されました。

食育基本法の制定

食育基本法の基本理念は、「子どもたち が豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも 『食』が重要である」というもの。

そして食育は、「生きる上での基本であって、知 育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」で、「様々な経験を通じて『食』 に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践すること ができる人間を育てること」となっています。

食育基本法の制定から、国民運動として次のような取り組みが推進されてきました。

  • 家庭での食育の推進
  • 学校・保育所等における食育の推進
  • 地域における食生活の改善のための取組の推進
  • 食育推進運動の展開
  • 生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農 林漁業の活性化
  • 食文化の継承のための活動への支援
  • 食品の安全性、栄養その他の食生活に関する調査・研究・ 情報の提供及び 国際交流の推進

具体的には、子どもの料理教室を開催して、家庭で親子で料理を作る働きかけをしたり、農業体験学習を義務教育のカリキュラムに取り入れたり、生産者と消費者の交流の場として直売を行ったり、各地で伝統の食文化を体験できる参加型の取り組みなどが実施されてきました。

出典:YOMIURI ONLINE「パパの家事参加を応援!広島・大阪・東京・福岡で 4月・5月にパパと小学生向けのクッキングスクール開催」(2017年2月14日)

また、食育基本法の制定を期に食事バランスガイドが作成されました。

食事バランスガイドとは、1日に“何を”“どれだけ”食べたら良いかを表したイラストです。

“健康で豊かな食生活の実現”を目的とした「食生活指針(平成12年3月)」を、具体的に行動にしようと、平成17年6月に農林水産省と厚生労働省により作られました。

 この食事バランスガイドは「駒」をイメージした構図になっており、分類された食品を偏りなく食べることで「安定した回転=バランスのよい食事」を目指しています。

出典:農林水産省「食事バランスガイド」

食事バランスガイドはたいへんよくできていて、遵守すると死亡リスクも減るよという研究結果もでているほどです。

詳しくご覧になりたい方はこちらの記事もどうぞ↓

このように、食育のはじまりから食育基本法の制定まではほんの”最近”のことではありますが、「この食生活が正しい」「お菓子やファストフードはダメ」という食文化が形成されたのです。

偏食が問題である根拠

好き嫌いはだめ、偏食はだめ。

これが当たり前の文化になった理由、少しお分かりいただけましたでしょうか。

法律は基本的に正しい、学校で習うことも正しい、そのような”教育”を受けてきた大人が”正しい教育”で子供を育てるのですから、偏食はダメという風潮は当然なくならないでしょう。

食育基本法が成立する前は、日本人は毎日似たようなメニューを食べて、たまに冠婚葬祭などのイベントでご馳走を楽しみに生きてきたのです。

それでも”生きられる”わけですよね。

その後食材が急速に増えて、これまで食べたこともないような食べ物が出てきて、そりゃ嫌いなものも出てくるのは当たり前だと思います。

偏食をしないほうがいい理由

極端なはなし、極端すぎる偏食で必要な栄養が全く摂れない状況でなければ、何を食べてもOKです。

生き死にを引き合いに出すのはやりすぎですが、偏食で死んだ人なんていませんよね。

では、世界は何を根拠に「偏食はだめだ」と言っているのでしょうか。

偏食と好き嫌い・欠食は意味合いが異なりますが、よく「朝ごはんをしっかり食べよう」と言われる理由は、朝食の摂取と体調不良・「何もやる気がおこらな い」との関係が研究で示さたからです。

そもそも偏食すること自体、摂取すべき栄養素が足りなくなるケースにのみ、その後の健康被害という点で問題なのです。

なぜ偏食してしまうようになったのか

人間には食べ物を「口にしてOKなもの」と「体に悪いから食べてはいけないもの」にわける素晴らしい機能が備わっています。

それが味覚

食べ物の味で、不足している栄養素を判断して、”おいしい”と感じるのです。

喉が渇いていたら水がとても美味しく感じますし、運動後に甘いものやしょっぱいものが食べたくなるのは、塩分・糖分が不足しているから。

味覚は、腐ったものを判別するだけではなく、食べ物の栄養成分を判別するために発達した機能なのです。

ではなぜ現代では偏食・好き嫌いが多いのでしょうか。

それは、昔の人に比べて加工された食品を口にすることが多くなったから

加工され、添加物がたくさん入った食べ物は、食品本来の味から栄養素が判別できなくなってしまっているのです。

味覚脳がパニック状態のため、必要ないのに塩分をたくさん摂りすぎてしまったり、足りない栄養素を欲しいと思わなかったりと、そんな問題が起こっているわけです。

というわけで、味覚異常、”異常”というほど問題ではありませんが、食育によって必要な栄養素をきちんと理解して意識して摂取することが大事になったのです。

そうはいっても、体に害がなければ好きなものを食べたい・嫌いなものを無理やり食べたくないという思いは切実ですよね。

ではどこまでがOKなのでしょうか。

どこまでがOKか?

このように食育、食育と、とても喧しい時代になりましたが、少数派ながら、

  • 嫌いなものを食べるストレスのほうが問題
  • 嫌いなものを”克服”、”訓練”するほどの問題なのか?
  • 美味しいと思うものを食べていないから
  • 美味しいと思うものを食べていれば栄養は十分

このような考え方の専門家もいて、私も割とそちら寄りです(好き嫌い・偏食は全くありませんが)。

でも将来の健康に害が出てくるレベルはだめだと思っています。

それがどの程度か、なかなか該当する研究がなかったものの、2015年にアメリカのデューク大学医療センターによるコホート研究で、偏食が問題となるレベルについて調査した結果が公開されました。

それがこちら

タイトルが『Psychological and Psychosocial Impairment in Preschoolers With Selective Eating』。

偏食の子供はうつや不安リスクが高いという研究です。

研究の概要はこちら。

2~5歳の子供917名を対象に、偏食の程度を分類し、精神障害のリスクとの関連を調査しました。

この研究での偏食レベルは、例えば「ニンジンが嫌い、ピーマンが嫌い」といった”特定の食べ物が嫌い”な子は偏食には含めていません。

限られた範囲の好きな食品しか食べない場合を中度の偏食、その中でも偏食がひどすぎて他人と一緒に食事をすることができない場合を重度の偏食としてグループ分けをしました。

その結果、偏食のない子供と比較して偏食のある子供では、次のような精神障害のリスクと関係があったのです。

  • 中度の偏食のある子より重度の偏食の子のほうが抑うつ症のリスクが2倍以上高かった
  • 中度と重度の偏食では、抑うつ・全般的不安障害・社交不安障害のリスクが有意に上昇した
  • 重度の偏食では、分離不安障害と注意欠陥多動性障害のリスクが有意に上昇した

つまり、中度から重度の偏食は、うつ・社交不安障害・全般的不安症状といった精神的障害の症状のリスク上昇と関連していたことがわかったのです。

出典:PEDIATRICS Volume 136, number 3, September 2015

ちなみに、この研究で定義したところの「中度」「重度」の偏食は、アメリカの指標で考えると、医師の診察を受けなければならないレベル

好きな食品しか食べないレベルの偏食は割と多いのではないでしょうか。

野菜を全く食べない、ヨーグルトしか食べない、パンしか食べない、こんな子は中度の偏食といえますので、どんなに工夫しても、お腹が減っているときにあげても、機嫌が良いタイミングであげても、それでもダメな場合。

偏食が何年も何年も続くようでしたら一度医療機関で相談してみても良いかもしれません。

その他、軽度の偏食でしたら健康という点からは全く問題ありません(個人差がありますので”全く”は言い過ぎですが)。

ブロッコリーがだめ、トマトがだめ、ピーマンがだめ、納豆がだめ、これらは成長とともに食べられるようになるケースも多いですし、子どもの偏食は一時的なものと割り切って、そこまで神経質にならなくても良いと思います。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

特に幼稚園・保育園などで集団生活をしていると、他の子と比較して偏食は気になってしまいますが、子どもは体も小さいので、大人が必要なほどの栄養は必要ありません。

毎日の献立をあれこれと悩むご家庭は多いかと思いますが、過敏にあれこれと食べさせる”訓練”は必要ないと私は思います。

幼稚園・保育園の先生は栄養学を学んできており「偏食がなくバランスよく食べる」ことが正しいと習い、現場でもそのように教えています。

もちろんそれも正しいですし、美味しい食事をみんなでたくさん食べることは感情を豊かにする上でも重要かとは思います。

でも、そればかりが正義ではないことを頭に入れていただけたら、毎日気をはってあれこれ工夫していた労力を少し軽減できるのではないでしょうか。