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こちらでテーマにしている「予防医学」。

予防医学とは

「生活習慣を整えて未然に病気を防ぐこと」

何となくこのように理解されていると思います。

日本では公衆衛生学と同義で使われることも多く、以前からアメリカで主流である予防文化と国内の医療費高騰も相まって、日本国内で注目されるようになりました。

今回は、予防医学を語るうえでベースとなる「健康とは」から、近年の広い意味での予防医学の考え方をご紹介します。

そもそもの健康の概念

予防医学を語るうえで欠かせないのが、そもそもの「健康」の概念。

最近、「寿命」とは別に「健康寿命」や「QOL」という言葉を耳にするようになりました。

WHOでは、健康寿命とは、

「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」

QOLとは“Quality of Life”のことで、

「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待・基準・関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」

と定義されています。

これらは、“人の人生の幸福”を考えたときに、

  • それは本当に“病気にならないこと”だけなのか?
  • 病気にならなくとも、日々の生活が充実していなければ人の人生の良しあしは語れないのではないか?

そんな疑問から、病気の有無はもちろん、人の「心の健康」にも焦点があてられるようになりました。

WHO憲章では、その前文の中で「健康」について、次のように定義しています。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.

日本語に訳すとこんなかんじです。

健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること。

この「健康」の概念が生まれたのはアメリカです。

日本で予防医学が流行りだしたのは、もともとアメリカで主流だった「予防」の考えに、健康の意味がこのように広義になったことがきっかけです。

ではアメリカで「予防」の考えが主流なのはなぜでしょうか。

それはアメリカの医療制度によるものでしょう。

医療制度の違いと予防医学のはじまり

その国の医療文化の形成は、根本にある思想と産業の発展にともない発足される医療制度に大きく左右されます。

世界一と称賛される日本の医療サービスは「国民皆保険制度」に支えられています。

一方で、日本がその都度影響を受けるアメリカの医療保険はすべて民間のサービスによるもの。

では、その違いがもたらす日本とアメリカの医療文化の違いをみてみましょう。

日本の場合

  • 国民皆保険制度により医療費の負担は3割のみ
  • したがって、病気になったら病院に行って治療する対処療法が主流
  • 莫大な医療費赤字につながる

アメリカの場合

  • 国民皆保険制度はないため、窓口負担は全額自己負担
  • 病気にならないよう「予防」が主流
  • 個人が民間の保険を利用するなど、医療サービスは1つのビジネス

このように、アメリカは公的な医療保険がないため、病気にかからないようにしたいというのが自然な考えになります。

不安がある人は個人で民間の保険に加入するというシステムです。

これはこれで一見ありかなとも思いますが、いざ病気やケガをした時は大変な額を請求されることになります。

例えば、日本では風邪をひいて辛いとすぐに病院に行きますよね。

同じことをアメリカでするとどうなるかというと…

医療保険に入っていないと、窓口で全額自己負担で約200ドル(1ドル=約107円)。

たかが風邪で、5分~10分程度診察を受けて処方箋をもらって約2万1500円です!

これに薬代が約60ドル~とかかります。

また救急車を利用する際も有料です。

基本料金=約2万5000円(1マイルごとに約600円の加算)

タクシーと同じ考え方なのですね。

日本の予防医学はアメリカの健康意識から

このような制度化で、アメリカはもともと健康意識が高い国でした。

そんなアメリカがはじめて公然と「ヘルシーピープル」という健康増進制度を提唱しました。

これは今後10年後の健康増進を目標に、10年ごとに打ち立てる各種健康政策です。

現在は、2011年から2020年を目指して、特に「予防医学」に力を入れる内容になっています。

なお、日本ではこれに倣って「健康日本21」が発足されました。

健康の概念も一新され、財政赤字が深刻となっていたこともあり、このような背景のもと、日本でも「予防医学」に注目するようになりました。

では、問題となっている財政赤字について少し補足しましょう。

財政赤字の多くは「医療費赤字」

財政赤字の多くを占めるのは「医療費赤字」です。

そして医療費赤字の原因がズバリ「自己負担の少ない65歳以上の高齢者の医療費」です。

国民医療費は2008年度の34.8兆円から、2025年には52.3兆円、老人医療費も11.4兆円から、24.1兆円にまで増加する見通しとなっています。

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出典:総務省「ICT超高齢社会構想会議報告書」

特に日本は超高齢化社会で、増え続ける高齢者の自己負担は2割。

2割負担は、それまで1割だったのを2014年から引き上げた結果で、

支払いが単純に2倍になったことは、負担者からすると厳しいと思えます。

年齢が上がると当然のことながら、医療にかかる頻度も増えます。

厚生労働省によると、1人あたりの医療費額は80~84歳で89.1万円、90歳以上になるとなんと100万円を超すようになるのです。

今後の見通しでは、医療費は国内総生産(GDP)の伸び率を上回って増えていくとのこと。

つまり、このままだと延々と赤字財政が続くということになります。

日本の医療費赤字も予防医学のきっかけ

現在、医療費の4割が税金で賄われていますが、今後保険料では賄いきれない分を、主に現役世代が税金で肩代わりをすることになるでしょう。

健康保険組合も実はほとんど赤字ですし、長らく続いてきた医療制度も破綻を迎える時が来るのではないでしょうか…

一方で、医療費への投資は直接経済成長とは関連がないため、むしろ医療サービスの拡充はどんどん推し進めるべきだとする考えもあります。

いずれにしても、このような現状が、日本が「予防医学」へ意識を高めるきっかけになったわけです。

ただ、予防医学が発達してもいずれ何らかの疾患により死を迎えることは変わりません。

その際に最先端の医療技術のお世話になることになるわけですから、

医療費の支出という点では「変わらないのでは???」とは思います。

このような疑問は残しつつも、予防医学が日本で流行り始めた原点はご理解いただけましたでしょうか。

予防医学の概念

ここまでで、健康の概念の広がりから予防医学との関連についてお話ししました。

予防医学は、はじめは疾病予防の考えが中心でした。

しかし、健康の考え方が変わっていくにつれて、予防医学も広義になってきて、今では、

  • 疾病予防
  • 傷害防止
  • 寿命の延長
  • 身体的・精神的健康の増進の科学

とまでいわれるようになりました。

簡単にいうと、これまでの考えに「心の健康」、つまり「メンタルヘルス」が加わる形になったのです。

それまでメンタルの不調は、「やる気がない」「怠けているだけ」といった日本特有の精神論で片付けられ、しばし世間からは偏見の目でみられていました。

しかし、メンタルの不調からくる精神疾患が立派な「病」として扱われるようになってから、メンタルの不調を訴える人が実はとても多かったことがわかり、今では社会問題ともなっているほど。

この心の健康を含めた広義の健康をベースに、予防医学の領域は大きく3つに区分されます。

  • 一次予防:健康増進・疾病予防・特殊予防
  • 二次予防:早期発見・早期対処・適切な医療と合併症対策
  • 三次予防:リハビリテーション

です。

ではこれらを詳しくみていきましょう。

一次予防(疾病前段階)

一次予防とは、いわゆる健康な時期に、栄養・運動・休養など生活習慣の改善、生活環境の改善、健康教育等による健康増進を図り、さらに予防接種による疾病の発生予防と事故防止による傷害の発生防止をすることです。

具体的には、

  • 高血圧にならないように塩分を控える
  • 肥満にならないように運動する
  • 体の状態を確認するために特定検診を受診する

こういったことが一次予防です。

二次予防(疾病段階)

二次予防は、不幸にして発生した疾病や傷害を検診等によって早期に発見し、さらに早期に治療や保健指導などの対策を行い、疾病や傷害の重症化を防ぐ対策のことです。

具体的には、

  • 人間ドッグを受けて病気を発見する
  • 救急処置を受ける
  • 糖尿病患者が血糖をコントロールして悪化・合併症を防ぐ
  • ツベルクリン反応をみて結核の早期発見する

こういったことが二次予防にあたります。

三次予防(疾病段階)

三次予防とは、治療の過程において保健指導やリハビリテーション等による機能回復を図るなど、QOL(Quality of Life)に配慮することによって再発防止対策や社会復帰対策を講じることです。

具体的には、

  • 脳卒中患者の機能回復の訓練
  • エイズ患者のカウンセリングサービス
  • 腎不全患者への人工透析
  • 後遺症の治療

こういったことが三次予防にあたります。

それぞれ似ているのでわかりにくかったかもしれませんが、

一次予防は病気になる前、二次予防・三次予防は病気になってからの段階の「予防」を指します。

では、突然ですが、さらに理解を深めていただくためにここで問題です。

下記のうち、一次予防はどれでしょう?

  • 労働者のがん検診
  • 精神障害者の作業療法
  • 脳卒中患者の理学療法
  • 性感染症予防のためのコンドームの使用

答えは④。

  • 早期発見・早期治療により病気を防ぐ、二次予防
  • 症状の進行を防ぎ、機能回復を目指す、三次予防
  • 症状の進行を防ぎ、機能回復を目指す、三次予防
  • 病気の発生を未然に防ぐ、一次予防

正解できましたでしょうか。

こちらは、第101回目の看護師の国家試験問題です。

予防医学は実際の臨床の現場でも大切

医療従事者は、予防医学の段階を正しく理解してケアにあたる必要があるわけですね。

このように、予防医学は実際の臨床の現場においても大変重要な関連を持つことがわかります。

そして、広義になった予防医学は、公衆衛生学・保健学・栄養学・看護学・教育学・心理学などの「医学」には分類されない学問と深く関わっているのです。

日ごろ意識づけするよういわれていることは、たいていが予防医学の考えにそった内容です。

たとえば、

「よく噛んで栄養バランスを考えて食べましょう」は「食育」にあたり、栄養学や教育学に該当しますし、

「心身に不調をきたさないようストレスをためない生活をしましょう」は、公衆衛生学の中の産業衛生学や心理学に分類される内容です。

予防医学とは、こういった心身の健康に関する学問を足し合わせた学問といえるでしょう。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

予防医学について、少しご理解いただけましたでしょうか。

これまで病院で処方されていた薬剤にとってかわるように、サプリメントが流行るようになり、薬局では医療費削減のため、ジェネリック薬が勧められるようになりました。

メンタルヘルスという点では、企業において従業員に対する「ストレスチェック」が義務化されました。

引き続き、今後もますます”予防医学関連サービス”が普及するようになるでしょう。

このように予防の意識が高まることで、私たちは健康に気づかうようになり、自然に健康のための知識を得るようになります。

これは、自分の生き方を自分自身で考えることができるとても良い傾向だと思います。

「タバコはやめたほうがいい」は、従来から健康のために正しいことでしたが、人によってはそれが生きがいかもしれません。

極端ではありますが、「寿命が少し縮まってもタバコを吸うことが幸福!」なら、その選択もありだと私は思います。

要は、自分の身体のことを知ったうえで、選択できる知識があることが大事だと思うのです。

予防医学の知識が、みなさんの「人生の幸福」に役に立つとうれしいです。