日本の自殺者の動機が健康問題で、その内約で最も多いのがなんと「うつ病」。

また、行政法人 労働政策研究・研修機構が2012年に実施した調査によると、企業を退職する理由のトップ3に「メンタルヘルス」が入ってきます。

今や欧米では4人に1人は精神疾患にかかっているともいいます。

一方、日本では患者数が少ない統計結果が出ています。

今回は、精神疾患に関わる統計を整理し、正しい背景と社会的損失の規模をわかりやすくまとめました。

精神疾患患者が多いことの社会への影響

今や現代病ともいえる精神疾患。

”こころの健康”も、総合的な健康を語るうえでは必須の要件になりました。

日本でも徐々にメンタルヘルスへの認知と理解が高まってきていて、職場でも「ストレスチェック」が義務化されるなど、国をあげて対策に取り組み始めています。

裏を返すと、それだけ精神疾患の経済的損失が大きいということです。

では、精神疾患患者が多いとどのくらいの損失があるのでしょうか。

精神疾患の経済損失は約8兆円

平成22年の厚生労働省の調査報告に、精神疾患の社会的コストの推計が出ています。

精神疾患というと、認知症や発達障害、摂食障害などほかにも種類はたくさんありますが、この調査では統合失調症・うつ病・不安障害の3つのみを対象としています。

出典:平成 22 年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金「精神疾患の社会的コストの推計」 事業実績報告書

それぞれの損失コストは、 2.7 兆円3.1 兆円2.4 兆円でした。

総計なんと約8兆円。

メンタルヘルスによる経済損失は約8兆円というわけです。

図にある間接費用・直接費用の内容は下図のようになっています。

直接費用とは、精神疾患にかかって医療機関を受診した際にかかる医療費と、それによって受けることができる医療や福祉サービス費用のこと。

間接費用とは、精神疾患にかかってしまったことで休職・離職し、本来得られたはずの労働利益(つまり労働損失)のこと。

出典:平成 22 年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金「精神疾患の社会的コストの推計」 事業実績報告書

直接費用・間接費用はどちらも”損失”ではありますが、実際に問題となっているのは「直接費用」。

間接費用を削減してしまうと、例えば患者へ十分なケアができず、復職が遅れる・または復職ができないといった状況を生み、結果直接費用が多くかかってしまうことになるからです。

間接費用との割合でみると少ないように感じますが、直接費用だけで総計約1兆円弱。

これがどれほどの額かイメージできるでしょうか?

ケタの大きさにピンとこない方も多いと思いますので、1兆円、8兆円の損失がどのくらいの規模なのかみてみましょう。

8兆円の規模を考える

日本の経済が低迷している原因として考えられているのが、

  • 0~2歳保育利用率の低さ
  • 大学進学率の低さ

この2つです。

それは、保育と大学進学にかかる費用がとても高いことが原因です。

それがなぜ経済低迷の要因なのかというと、”教育の推進”と”経済の発展”が比例関係にあるからです。

京都大学准教授の柴田悠先生は、3~4歳での保育教育は非認知能力を上げ、それが所得上昇につながるといっています。

非認知能力とは、忍耐力・社交性・自尊心といった幅広い力や姿勢を含んで、学歴や仕事など将来の成功の支えとなる能力のことを指します。

非認知能力が向上すると、

  • それにより犯罪率が下がる
  • 税収が増える
  • 政府支出が減る

とういことで、教育への投資の重要性が指摘されています。

そして、すべての子どもの保育・教育・高等教育を無償化すると、合計コストは約8兆円

日本の貧困な子どもの高校進学率・大学進学率が向上すると、一学年あたり、課税前の生涯賃金が2.9兆円増えて、税・社会保障の政府純支出(社会保障支出-税・社会保険料収入)が1.1兆円減るそうです。

また、解決しない待機児童問題について、潜在的待機児童の解消と民間認可園保育士の賃金を上げると、合計で1.4兆円

つまり、約8兆円あれば、日本の教育水準が一気にあがり、生産性が上がることで経済が発展、公衆衛生レベルも格段に向上、貧困もなくなります。

また1兆円あれば、待機児童問題を解決するとのこと。

他にも、解決できる社会問題はたくさんあって、精神疾患にかかる損失コストを減らすことは、日本産業の発展に欠かせないわけなのです。

では、そもそも精神疾患の患者はどのくらいいるのでしょうか。

参考:日経DUAL「待機児童問題解決には1.4兆円あればいい」

精神疾患患者はどのくらいいるのか

厚生労働省の統計では、精神疾患を有する患者数は平成26年の調査時に約392万人

顕著に増加しているのは認知症で、年々高齢化が進むことによる加齢による脳機能の低下があげられます。

その他、統合失調症や気分障害、神経症性障害などの疾病がそれぞれ増加していることがわかりますよね。

出典:厚生労働省「患者調査」参考資料

ちなみに精神疾患患者は、几帳面や仕事熱心、責任感が強い、完璧主義といった性格で比喩される人に多い傾向があります。

それなら、国際比較すると日本人が一番うつ病が多いのではないかと思いますよね。

でも、日本の精神疾患の患者数は他の国よりも低いという統計結果が出ているのです。

どうにも腑に落ちませんよね。

なにか理由があるんだと思いますよね。

まずは患者数の国際比較をご覧ください。

精神疾患患者数の国際比較

こちらは、日本認知行動療法学会が掲載しているメンタルヘルスの国際比較です。

こちらは2003年までのデータで若干古いもの、メンタルヘルス障害の有病率が国別で比較されています。

出典:日本認知行動療法学会「メンタルヘルスの国際比較」

データでは第1位が米国日本は第9位です。

納得のいかない低さでしょう。

この結果だけ見ると、もしかして意外と日本人のメンタルヘルスは心配いらない?!と誤解しがちです。

でもこの数値には社会環境や、人種による症状の出方の差が盛り込まれていません。

正しくは、医療機関を受診した顕在化した有病率と言い換えてもよさそうです。

日本の異常な精神疾患関連統計

日本で精神疾患患者が顕在化したら約4人に1人という割合をゆうに超すのではないでしょうか。

そして、すでに医療機関を受診して顕在化している患者のケアについても、世界基準で「問題あり」とみなされるほど異常な状況があります。

それが、精神疾患患者の病床数の多さと入院期間の長さと、「うつ病」理由の自殺率の高さ

それぞれみてみましょう。

ベッド数の多さ・入院期間の長さが異常

日本の入院期間が長すぎることはしばし他の疾患でも問題になりますが、精神病院においてはそれが他の国と比べて極端に差があります。

病床数も、世界中のベッドのうち、日本国内のベッドが約5分の1を占めるといわれるほど。

そんなに長期間入院してどんな治療をしているのか?!と、海外の専門家はよく“クレイジー”といいます。

日本で入院が長期化する原因の1つが“社会的入院”と言われるもの。

病院を出るとケアをしてくれる場所がない、人がいない、制度がない、そんなどうしようもない状況で病院に居ざるを得ないケースのことを指します。

これが日本ではとても多いのです。

特に精神病棟については、長い歴史の中で「精神疾患患者は隔離したほうがいい」という、現代でも差別・偏見を生む原因となった考え方が大変根強く残っています。

メディアの誇張も問題の1つです。

犯罪者が仮に何等かの精神疾患を有していたとき、他の病気のことは取り上げないのに、なぜだか「〇〇は精神疾患の治療で通院を続けていて~」と、まるで精神疾患だから犯罪を起こしたとイメージさせるような言い回しを使います。

だれも「糖尿病だから~」とか「インフルエンザだから~」とは言わないでしょう。

これこそが差別と偏見を生むきっかけになるのです。

そんなわけで、日本の精神疾患統計の異常な点の1つ目が、入院期間の長さとベッド数の多さでした。

日本はメンタルヘルス不調による自殺数が異常に多い

また注目すべきなのは自殺統計。

日本の看板、富士山のおひざ元の樹海は自殺名所とも呼ばれていますが、それが“名所”となるほどまでに、自殺は日本では異常なことではなくなっています。

事実、日本は欧米先進国と比べると自殺率がとても高いです。

2012年の推計で国際比較すると、日本はなんと世界第9位

ちなみに第10位までの順位はこちら。

  • 北朝鮮
  • 韓国
  • ガイアナ
  • リトアニア
  • スリランカ
  • スリナム
  • ハンガリー
  • カザフスタン
  • 日本
  • ロシア

アメリカは第41位、他の先進諸国も当然トップ争いには加わってきません。

北朝鮮・ガイアナ・スリランカ・スリナムは、一部が途上国、一部が国内の混乱が続く体制移行国だけです。

繰り返しになりますが、先進国で第9位の自殺率をマークしている日本は異常です。

そして問題なのが、自殺動機の内約中、「うつ病」の割合が高いこと。

警視庁がまとめている自殺者統計では、年間の自殺者割合のうち、「健康問題」を原因・動機とする自殺者数の内訳は、「うつ病」が最も多いのです。

次いで多いのが「身体の病気」ですが、平成27年統計では、この2つで健康問題全体の約4分の3を占めました。

出典:厚生労働省「自殺対策白書」第2章

つまり、日本において、精神疾患の患者数が少ないわけがないのです。

よく潜在患者といいますが、こと精神疾患患者についてはそれがとても多いのではないかと言われています。

では先ほどの国際比較の背景にどんなカラクリがあったのでしょうか。

日本で顕在化した精神疾患患者数が少ない理由

日本で本当は多いはずの精神疾患患者数が少ない結果となっている原因として主に考えられているのがこちら。

  • 日本では精神疾患そのものへの認知や理解が欧米に比べてまだまだ浅い
  • 症状の出方が欧米圏とアジア圏で異なる
  • 患者のサポートシステムが整備されていないため、医療機関の受診率が低い

これらがあげられます。

それぞれみていきましょう。

精神疾患の認知・理解

日本は欧米と比べて50年も遅れているといわれるほど、実は精神疾患のための社会環境整備が立ち遅れています。

精神疾患患者への差別や偏見もまだまだ根強いでしょう。

それは、日本の精神疾患の歴史の中に「隔離」、いわゆる「閉じ込め」という歴史があるからです。

前述しましたが、日本は他の疾患についても、入院期間が世界一長い国です。

隔離措置に相まって、精神疾患患者の入院期間の長さは群を抜いています。

その影響で、精神疾患に関して悪いイメージが先行してしまい、それが長く続いてしまっているのです。

だから、当事者でも「認めようとしない」ことが起き、治療できるのに「医療機関を受診しない」のです。

一方、他の先進諸国では、精神病棟をどんどん閉鎖し、地域全体でケアしていこうという考え方が主流になっています。

イタリアは極端な例ですが、この国は「精神病院」がありません。

精神病院はいわゆる閉鎖収容所です。

イタリアでは、人間を一つの所に閉じ込めるシステムでは人権が保障されない状況が起こるとして、1970年代に脱精神科病院を掲げて政策転換しました。

そして、1998年には全ての精神科病院が廃止されたのです。

このイタリアの改革は大変有名で、「右手で病院を解体し、左手で地域ケアをつくる」とよばれて、人手、濃厚なコミュニケーション、対等な人間関係や連帯を重要視しました。

その他にも、理解がなかなか進まない理由はこういわれています。

  • 事件の報道で、「容疑者は精神科に通院歴あり」など と言われると、知識がない人は、とても怖い病気と 思ってしまうんじゃないかしら。病気のない人だっ て事件を起こすのに……。メディアの偏った伝え方 は、誤解を招くのではと心配だわ。
  • ボクはね、“精神障害”という呼び方がそもそも誤解 を与える気がするんだ。統合失調症もうつ病も脳の 神経の疾患で、よくするためのお薬を飲んでいるん だから、精神障害ではなく“脳疾患”と言ってほし いな。
  • 「無知は罪なり」って言葉があるけど、精神障害の正 しい情報が知られていないから、差別や偏見が生ま れると思うの。学校や会社で、精神障害についてき ちんと教えてほしいわ。だれでもなる可能性がある 病気なんだもの。

引用:日本精神保健福祉士協会「どうすれば、差別や偏見を なくせるの?」

このように、日本で精神疾患の理解が進まない理由は当事者からも様々な訴えがあります。

症状の出方が異なる

例えば、うつ病を取り上げると、欧米圏の人は病気の影響が精神面に出やすいですが、アジア圏の人は、身体の症状として、頭痛・腰痛・食欲不振といった形で出やすい傾向があります。

身体に症状が出たら、心療内科を受診するよりも、極端な話し外科を受診するケースもありますよね。

内科を受診していたら、精神疾患の可能性を気づいてもらえる場合もありますが、身体の症状だけで受診した場合、精神疾患だとわからないケースが多いです。

実際にうつ病率のみ取り上げると、アジア諸国は欧米より低い結果が出ているにもかかわらず、精神疾患が原因の自殺率は高いのです。

一概にそれが原因とは言い切れませんが、国際比較自体がナンセンスであるという点ご理解いただけるでしょうか。

患者のサポートシステム

前述しましたが、日本以外の先進諸国では精神病棟を閉鎖し地域ケアを推し進めています。

欧米やオーストラリア、南アフリカなどは、精神疾患(特にうつ病)のサポートが手厚いです。

例えば、メルボルンの学校では、精神疾患についての学ぶ時間が取り入れられています。

また、アメリカの企業では、社内のカウンセラーが夫婦の離婚問題レベルから相談にのることで、”予防”に取り組んでいます。

日本では、例えば障害者認定がとおれば医療費の補助が受けられるにも関わらず、受けていない人が実は多いのではないでしょうか。

その理由は、

  • 「自分は精神疾患だ」と自覚させられるのが怖い
  • 手続きが面倒なのに、受けられるサポートはそれほど手厚くない
  • そもそもサポート制度を知らない

こちらは統計情報に基づいたものではありませんが、私の近親者もこのケースに当てはまり、同じような境遇の患者は少なくないと思えるからです。

手続きは家族が患者のケアをしながらやらなければならず、その家族はたいてい働いていますよね。

忙しい時間の合間に「そこまでして」得られる補助ではないということです。

海外では、サポートが手厚いため「それなら!」と申告自体がもしやすい環境ができています。

その分、医療機関の受診率も高くなり、統計上の患者数も増えるとうカラクリです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

日本の精神疾患に関する統計情報とその背景、少しご理解いただけましたでしょうか。

実は日本の精神疾患患者は4人に1人の割合以上なのではないかとこのほど思います。

精神疾患の症状は実にさまざまであることをお伝えしましたが、それは単に頭痛や眠れないといった”割とよくある”症状にも現れるからです。

お仕事に忙殺される日々で、体調管理は「食事だけ」になりがちな現代人。

少しの合間があれば、ご自身の心の健康を考えてみましょう。

単純に、今自分は気持ちよく生きることができているか?ということです。

満足しないまでも、妥協があっても、ちゃんと納得して、心の状態が良い状態で生活できていれば良いと思います。

このテーマでは「マインドフルネス」を語りたいところですが、詳しくはこちらの記事からどうぞ。

精神疾患のサポート体制については、日本も、国では「地域移行」を推進して精神病棟縮小に向かってはいて、見た目上・統計上は精神病院が少なくなっています。

でも、それ以前に地域での十分なサポート体制を家庭レベルで整備する必要があるのになと、これは個人的なつぶやきです。

ご賛同いただける方がいらっしゃるとうれしいです。

日本は他の先進諸国のまねっこを続けていますが、社会保障制度も全く異なる文化を築きながら、単なる輸入では人々の理解だけが置いてけぼりです。

日本独自のやり方の模索が今後も必須ですが、まずはメディアの誇張をなくしてほしいものです。

今回は精神疾患に関連する歴史については深堀りできなかったため、それは別の機会にまた。