医療保障制度の基本と仕組み。世界と日本の医療制度を比較してみた。

私達が日々の生活を健康に・安全に過ごすためには、自分自身の心がけも大事ですが、それらはすべて住む国の社会保障のもとで構築されています。

「任意の予防接種を必ず受ける」

 これは自分の健康への意識の高さによるもの。

でも、そもそも予防接種を受けられる体制が国になかったら…そもそも病院がなかったら…医者がいなかったら…

日本は平均寿命・健康寿命が世界一、つまり医療制度の水準が高い国です。

それは、日本の昔からの文化に現行の医療制度が適していたということでしょう。

世界には、戦争などで医療制度が機能していない国もあれば、日本とは全く異なる医療制度を採用している国もあります。

今回は、世界の医療制度と日本の医療制度を比較しつつ、医療制度や医療の良しあしを評価した論文を紹介します。

医療保障制度とは

医療保障制度とは、国民が自己負担できる範囲内で平等に医療が受けるために、医療費の財源を集める医療保険制度や、実際に医療サービスを提供する病院や医者などの医療提供制度のことです。

健康保険制度

日本は、生まれた時から国民全員がなんらかの健康保険に入っています。

健康保険は、定期的に収入によって決められた額を国に納める制度。

集めたお金で、私達国民が病院にかかった時に支払う医療費の7割(年齢によっては9割)を負担しています。

医療費の窓口負担が3割とはそういうことですね。

出典:厚生労働省 我が国の医療保険について

日本では、医療を本来払うはずのたったの3割で済んでます。

いつも高いなーと感じている医療費、たったの3割分だけでいいんですから安いんですよ!

日本は医療費の負担が安く済んでいるため、貧しい人も高額な医療費がかかる病気の人も、万人(とまでは言いませんが)が医療を受けられるようになっています。

保健医療の水準も実はめちゃめちゃ高く、医療の質も高くて有名です。

健康保険は大きく2種類

健康保険は、お仕事の内容によって国民健康保険または社会保険(のなかの協会けんぽ)にわかれます。

ややこしいように感じますが、健康保険は大きく2種類だけ。

  • 国民健康保険
  • 協会けんぽ

社会保険とは、会社で勤めて一定の条件を満たしている人が入れる保険です。

この社会保険の中に健康保険も含まれている、それが「協会けんぽ」というやつです。

でも、同じ保険料を集める仕組みがなんで2種類あるの??

私も疑問でしたので調べてみたら、単なる「安定した保険料の回収のため」でした。

どういうことかというと…

社会保険は、会社単位で、個人のお給料からあらかじめ納める額をひいて集めます。

だから集める側からすると大変回収しやすい

一方、国民健康保険は、個人が自分で支払うシステムです。

”支払う”点では同じですが、後者のほうが、個人のいろんな事情で回収できないケースが起こりやすい

だから、本来は国民健康保険の1つでいいところを、会社単位で確実にお金を回収できるように、窓口をもう一つ設けたというところです。

そんなように日本では健康保険からコツコツと集めてたお金で、国民の医療費の補助をしているというわけですね。

病院で保険証を月に1度提示しなくてはならないのは、「ちゃんとお金を払って健康保険に入っていますよ」という証明になるわけです。

豆知識:保険証を提示するわけは

ちなみに豆知識。

この”保険証の提示”は法律でも決まっていて、

  • 健康保険に加入していることの確認(資格喪失などのケースは、保険から7割負担ができないため)
  • 加入先の確認(職場が変わるなど加入先が変わった場合は、医療費の7割分の請求先が変わるため)

この2つの確認が、医療機関側では大事になるのです。

医療費の自己負担額は、日本では1割~3割

病院にかかった時の領収証を見てみると一発でわかりますよ。

右上あたりに「負担割合」が「30%」と記載されています。

これは、患者さんの自己負担割合が30%ですよということ。

ちなみに、医療にかかる費用は、「〇点」というふうに、項目や診療内容によって点数が決まっていて、それが1点=〇円というふうに換算されて医療費となります。

この領収証をみると、初診料が282点、検査が251点、投薬が68点、その他が7点となっていますね。

合計で608点。

1点は10円として計算されることが決まっているので、この時の医療費は6,080円。

この金額の3割だけを患者さんに請求するため、「1,820円です~」となるわけです。

本来は料金が発生している残りの7割は、国が負担します。

そしてこの7割は、加入している国民健康保険や、健康保険組合に請求するのです。

だから、7割分きっちり回収するために、患者さんが保険に加入していることと、加入先を確認する必要があるわけです。

医療制度の世界比較

日本では1割から3割が医療費の自己負担の割合ですが、他の国ではそれぞれ割合が異なります

なぜかというと、国によって採用している医療制度が違うから

どれほど違うのかみてみましょう。

医療制度の比較

主要国の医療制度です。

一概に、どの国の医療制度が良いとは言えませんが、下記にあげる国は保健医療の水準は世界の中でもトップクラスといえるでしょう。

  • 日本(2014年):社会保険方式
  • ドイツ(2013年):社会保険方式
  • フランス(2013年):社会保険方式
  • スウェーデン(2013年):税方式による公営の保健・医療サービス
  • イギリス(2013年):税方式による公営の保健・医療サービス
  • アメリカ(2013年):社会保険方式(メディケア・メディケイド)

日本・フランスは国民皆保険、ドイツは国民の約88%が加入しています。

スウェーデンは、医療保険という形をとらず、税金で保健・医療サービスを賄っています。

スウェーデンの消費税は25%

スウェーデンは福祉大国と称され、福祉サービスが世界一とも言われています。

税金をたくさんとる代わりに、20歳までは医療費が無料(85歳以上も)だったり、大学までの教育料もすべて無料だったりと、とにかく福祉が手厚い制度になっています。

イギリスは、NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)と呼ばれる国営の医療制度があって、税金を財源にした保健医療サービスが充実しています。

極端なのはアメリカ。

アメリカは、公的な医療保険制度としてはメディケア・メディケイドと呼ばれるものがありますが、基本的に医療保険は民間のものに自分で加入するしくみ。

メディケア・メディケイドは、所得の低い人や高齢の人のための給付の精度です。

社会保障税を財源にしています。

自己負担割合の比較

病院にかかった時の窓口での自己負担割合はこのようなかんじです。

  • 日本(2014年):3割(年齢によって1割・2割)
  • ドイツ(2013年):外来は無料(入院・薬剤は別)
  • フランス(2013年):外来30%、入院20%、薬剤35%
  • スウェーデン(2013年):自治体が設定できるがだいたい無料(入院・薬剤は別)
  • イギリス(2013年):無料
  • アメリカ(2013年):ある額・ある日数の入院といった条件以外は全額自己負担

だいぶ細かい設定を省いていますが、このようなかんじでしょう。

アメリカについては、国民皆保険制度を目指した医療保険制度が2014年に開始されました。

通称オバマケアと呼ばれるこの制度では、皆が民間の保険会社へ加入する制度です。

まだまだこの導入は地域による差が大きいようですが、今後の発展に期待です。

公的な医療保険を取り入れているのは日本・ドイツ・フランスですが、それぞれ保健医療サービスの自己負担割合は異なります。

ドイツの「外来は無料」いいですよね。

でも、日本では保険料が給与の10%なのに対し、ドイツは15.5%

毎月15.5%も給与から持っていかれたら、同じ物価で生活するにはちょっと苦しいですよね。

スウェーデンやイギリスは、税金が高い一方で、医療費が無料、他の福祉的なサポートも充実していて、これはこれでありかなとも思います。

結局どの国の医療制度がいいの?

はい、一番知りたいのがこれですよね。

医療制度の評価指標はいろいろある

医療制度が優れていることの指標は、いろんな軸で評価できると思います。

たとえば

  • 医療への満足度
  • 乳児死亡率
  • 平均寿命・健康寿命
  • 医療機関数・医師数
  • 患者のQOL
  • 高難易度の手術実施率
  • 医療の質

軽く思いつくだけでもこんなにあります。

平均寿命・健康寿命・乳児死亡率で評価するならば、日本の医療制度は”健康な国民”のための最高水準の制度だといえます。

でも一方で、日本人は治療や医師に満足していないというデータもあります。

治療への満足度について調べた調査では、対象となった国の中でワースト4(全調査対象国中代28位)

約70%の人が満足してはいるものの、ほかの国と比べると低い結果なのです。

なお第1位はベルギー、第2位がスイス、第3位がオーストラリアと続きます。

アメリカは第7位、福祉大国のスウェーデンは第19位でした。

また、医師への信頼をランキングにすると、

第1位がスイス、第2位がベルギー、第3位がデンマークと続き、日本は第23位と、全体でも低い結果でした。

もちろん、感じ方は文化的な人の性格にもよります。

日本の病院で同じ治療を受けたら、海外から来た人には「すばらしい!」とも感じるかもしれないのです。

また、医療への信頼というのは、医療事故などの報道にも大きく左右されます。

日本だったら「質が高くて当然」の空気感があるのも、評価が辛口になるハードルを上げる原因になっているかもしれません。

医療制度への満足度

医療制度によって形成される医療の質や満足度で評価するのは、私は賛成。

寿命や死亡率もわかりやすくていいですよね。

結局は、国民が平均して健康であることが大事だと思うので。

でも直接的に、自分の国の医療制度に満足しているか?という調査も実施されました。

出典:村田ひろ子/荒牧央 日本人はなぜ医療に満足できないのか

小さくて見にくいでしょうか。

第1位が「満足している」人が93%だったベルギー

「満足している」とは、このグラフの中でいうところの「非常に満足」「満足」「どちらかといえば満足」を足したものです。

最下位は22%のチリ。

日本はまたもや低いほうですね…

一体なぜでしょう。

医療制度への満足度にはどんな背景があるか?

どんな特徴がある国で医療制度への満足度が高いのかを解析した報告もあります。

結果だけ列挙すると、医療制度への満足度に関連したものは主に3つ

  • 医師への評価が高い国で満足度も高い
  • 医療制度が効率的に運営されていないと国民が感じる国で満足度が低い
  • 医療へのアクセスが悪い国で満足度が低い

医師を信頼していて、治療に満足していれば、良い医療制度だと感じる。

これは納得でしょう。

医療制度が効率的に運営されていないと国民が感じている。

これについては、日本の政府は痛い指摘なのではないでしょうか。

医療費赤字や、ジェネリック医薬品をゴリ押ししたり、現場が追い付いていないのに在宅への移行もゴリ押ししたり、若い世代にしわ寄せがくることが目に見えていることとか

近年は特に医療制度への課題が国民にもわかる形で明らかになっているので、そりゃあ不安ですよね。

そして医療へのアクセスという点について。

アクセスとは医療の受けやすさ

解析結果から上がってきたアクセスの悪さは以下の3つでした。

  • 医療費が支払えなかった
  • 家の近くに受診できる病院がなかった
  • 待ち時間が長かった

医療費の支払いについては個人差があると思うのでなんとも…

家の近くに受診できる病院がなかったとのことについては、日本は病院の数は少なくないため、世界の国と比較しても医療は受けやすいレベルです。

でもこれには、病院が都市に集中しているとかそういった背景があるのでしょうかね。

また、高齢の方は特に、住まいの近くに病院がないことは大変不便に感じます。

日本は高齢化率が非常に高く、生活のサポートを担う若い世代の方にとっても、病院への物理的な距離感は負担に感じるのだと推察できます。

つぎに診察の待ち時間が長い件について。

これは都市部にお住まいの方は特に同意なのではないでしょうか。

日本人は大きな病院に行きたがる傾向にあります。

大きな病院では設備も整っていますし、医師の数も実績もありますし、小さなクリニックでは受けられない治療法が可能であったりもします。

でも、近くのクリニックでも十分な医療が受けられるのに、どんな不調のときでも「質の高い医療が受けられる」と皆が大病院を選びたがります

そりゃあ混みますし待ち時間が長くなりますさ!!

今この、「大病院が混んでて救急患者の受け入れが困難」になっている事態が問題にもなっていて、大きな病院にかかるためにはクリニックの紹介状を必要にするとか、そんなような対策も考えられています。

いずれも、日本人が医療制度への満足度が低い要因の1つではありますので、「満足度」を「医療の質」ととらえるならば、これらの課題を確実にクリアする必要がありますね。

医療の質は日本が世界最高レベル

どの国の医療制度がいいなーというのは、何を重視するかで変わってくるというわけですが、医療制度の元で提供される医療の質に関してだけ述べるとすると、日本は社会状況が近い国だけで比較すると世界最高レベルだということが報告されました。

2017年7月に発表されたその論文によると、世界195か国中、日本の医療の質の点数は第11位

こちらが、そのランキングを第20位まで論文から抜粋したものです。

出典:Healthcare Access and Quality Index based on mortality from causes amenable to personal health care in 195 countries and territories, 1990–2015: a novel analysis from the Global Burden of Disease Study 2015, THE LANCET, 390(10091), 231–266, 2017.

第1位のアンドラ公国という国で、フランスとスペインの間にある小さな国です。

人口は約8万人。

第2位のアイスランドも人口が多い国ではないため、ランキングだけで日本と評価するのは早計ですね。

人口が少なければ上質な医療が届きやすい点が直結するからです。

第3位はさすがのスウェーデン。

日本の第11位というのは、人口や社会状況が比較的近いG7(先進7か国)の中では一番の成績でした。

もちろん、繰り返しになりますが、医療の質を何の尺度で評価したか、それがランキングに大きく影響することはいうまでもありませんが!

この時の調査では、「防げるはずの死」をどれだけちゃんと防げているか?の尺度に重点を置いたそうです。

たとえば、別の記事でも紹介しましたが、人工透析を必要とする腎疾患を持っている患者さんや、結核の患者さんなど。

彼らは、ちゃんとした医療設備と治療技術と医師がそろっていれば、死を防ぐことができることがわかっているのです。

そういう点では、日本は世界最高水準の保健医療サービスを提供している国だと誇りをもってもいいのだと思います。

医療の満足度という点を重視するならまだまだ課題はあるとは思いますが!

おわりに

いかがでしたでしょうか。

世界の国々はそれぞれの国に適した(と考えられる)医療保障制度を採用していて、一概にどの国の制度が良いかはいえないけれども、医療の質とか満足度とかで評価されていますということ、ざっくりご理解いただけましたでしょうか。

私は、ランセットの論文中の医療の質の指標に「防げるはずの死」を重要視したこと、大変同意です!

でもそれは今30代だから思うことなのかもしれない。

高齢になって、生活の中に「通院」が必須になった時に優先度が高いのは、「防げるはずの死」よりも「治療への満足度」とか「医師への信頼度」かもしれないのです。

結局、一番クリアなのは、医療サービスを受けているすべての人の意見を集約すること。

そんなことはできないので大規模調査で「これがミクロにした国民の意見の傾向だ」と置き換えているのですが。

でも、日本の医療制度についてはマイナスな現実ばかりが目立っている昨今、でも医療の質は最高だよといえることは、ギリギリのプライドになるのではないでしょうか。

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